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2012年07月11日

若山牧水の旅模様

 幾山河 越えさりゆかば寂しさの はてなむ国ぞ今日も旅ゆく
の若山牧水から、旅は孤独なイメージがあったが、彼の紀行集『みなかみ紀行』を読むと異なる感想を述べたくなる。信州や上州の山深い温泉宿を歩いて訪ね、酒を飲むのを楽しみにしていたことがわかるが、友人、知人と一緒に酒を汲み交わしている。計画的でしかも友人との再会の口実が牧水の旅でもあった。そして、紀行文として出版し、生活の糧にもなっていた。何よりも旅先で詠む短歌が多くの大正人を魅了した。
 牧水は、晩年海に近い静岡沼津の海岸近くに居を構えている。千本松原という長い年月人々に守られてきた松林が伐採される計画が浮上したことがあった。真先に反対運動を起こしたのが牧水だったのである。地球温暖化が世界の共通認識になりつつある現代よりも遥か以前の時代に環境保護を訴えたわけである。牧水が自然保護の運動家とは思えないが、緑深い山河を愛していたことは、『みなかみ紀行』を読めばよくわかる。「みなかみ」は、温泉地の「水上」ではなく、水源地の「みなかみ」である。そこには、きれいな水と木々があり、春は緑が芽吹き、夏は深緑が涼しい影を落とし、秋には紅葉して美しい。冬木立もまた良い。四季さまざまな鳥の声も聞こえる。牧水が多くの鳥を知っていることに驚かされた。
 啄木鳥の声のさびしさ飛び立つとはしなく啼ける声のさびしさ
 紅ゐの胸毛を見せてうちつけに啼く啄木鳥の声のさびしさ
草津からさらに源流に近い花敷温泉に行く途中の短歌だが、さびしい、さびしいと言っている。同行者もあり、牧水が啄木鳥の鳴き声をさびしいというのは、読者を意識しているように思えてならない。いわば常套句に近い。この時代の大衆は、さびしさに対する共感があったように思えてならない。
 牧水には、「枯野の旅」という詩がある。その中に
上野(かみつけ)の草津の湯より
沢渡(さわたり)の湯に越ゆる路
名も寂し暮坂(くれさか)峠
という一節があるが、ここにもさびしさが詠われている。牧水のおかげで暮坂峠は有名になった。それこそ、牧水が詩にしなければ、何もないさびしい峠である。
  (紀行文集拙著『白萩』、羇旅より抜粋)


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Posted by okina-ogi at 17:22│Comments(0)旅行記
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