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2012年10月12日

花と話ができた人

心に浮かぶ歌・句・そして詩38
横須賀市に聖女ともお呼びして良い素敵な方がいた。お父様が設立した幼稚園の園長さんを長く務められたが、先年他界された。晩年は、病床に伏す日が長く、文通と電話だけのやりとりになった。石川郁枝さんという方で、園児の中には、小泉元総理の御子息がいた。根っからの詩人のような方で、沢山良い詩を教えていただいた。曲になっているものもあり、下手なギターでは失礼とは思ったが、テープに録音して送ったこともあった。石川さんを偲びつつその歌詞を紹介したい。以前書いた紀行文からの抜粋である。

連休の前に横須賀市に在住の今年七十五歳になる女性から、達筆なペン字の手紙をいただいた。和紙の便箋に流れるような文章で、人生忘れられない童謡の詞が書かれてあった。ご本人には、承諾を得ているわけではないが、童心を失わないその美しい情緒に共感する者として書かせていただくことにする。この手紙が、信州行きの刺激になったのは事実である。
 
一どこかで 春が生れてる
  どこかで 水が流れ出す
 二どこかで雲雀が 啼いている
  どこかで芽の出る 音がする 
  山の三月 東風吹いて
  どこかで春が うまれてる
題名は「どこかで春が」であるが、作詞は百田宗治である。続いて書かれてあったのが「風」である。作詞は西條八十であるが、イギリスの女流詩人クリスティナ・ロセッティの原詩を元にしている。
 
一誰が風を 見たでしょう
  僕もあなたも見やしない
  けれど木の葉を ふるわせて
  風は通りぬけてゆく
 
二誰が風を 見たでしょう
 あなたも僕も見やしない
 けれど樹立が 頭をさげて
風は通りぬけてゆく
二つも草川信の曲が、しかも続けて書かれていたのには驚いた。これらの歌は、母親から教えられたと書かれてあったので小学生になる前に覚え、今日まで愛唱されてきたのだろう。残念ながら「日本の歌百選」に選ばれなかった草川信の曲をもう一つ揚げておく。これは、私の好きな歌である。「春のうた」作詞は野口雨情である。
 一桜の花の咲くころは うららうららと日はうらら
  硝子の窓さえみなうらら 学校の庭さえみなうらら
 二河原でひばりのなくころは うららうららと日はうらら
  乳牛舎(ちちや)の牛さえみなうらら 鶏舎(とりや)の鶏さえみなうらら
 三畑の菜種の咲くころは うららうららと日はうらら
  なぎさの砂さえみなうらら どなたの顔さえみなうらら
春の気分そのものなのである。けれども、春はクラス変えがあったりして親しくなった友達と離れる憂鬱な気分もあって、子供心になんとも言えない季節でもあった。一番の歌詞を唄うとその記憶が蘇ってくる。
 七十五歳の素敵な女性の好きな歌は続く。小学校読本からのものだという。
  土筆誰の子スギナの子 土手の土そっとあげて
  土筆の坊やがのぞいたら 外はそよそよ春の風
誰の曲とも、詞とも書かれていないが、実に春の情景を土筆を主人公にして表現している。次ぎの歌は題名だけが書いてある。
「田舎の四季」
  道をはさんで畑一面に 春は穂が出る菜は花ざかり
  眠る蝶々飛び立つ雲雀 吹くや春風たもとに軽く
  あちらこちらに桑摘む女 日増し日増しに春蚕(はるご)も太る
数学者岡潔先生の講義録の中にある歌が書かれてあった。素敵な女性は、岡潔先生の御縁で知りあった方なのである。
 春来た時は川土手に すみれの花が咲いていた
 ゆらりゆらり春の水 白い帆影が浮かんでた
 
 冬来た時は枯草に 寒い北風吹いていた
 サヤサヤサヤと鳴る風に 水は底まで澄んでいた
冬の詞も加えたが、場所は同じであるから四季のうつろいの中に大自然の営みを感じ、春も冬もそれぞれに良いという気がしてくる。どのような曲がつけられているのだろう。
 
人の世に生きていると、様々な出来事や、境遇に遭遇し喜びも悲しみも経験するが、こうした詞と歌に触れると自然というものがいかに大いなるものかを痛感させられる。そして、世代を超えた情緒の共感を生み出す。日本的情緒というものは確かにある。懐かしさという情緒はその中核にあるような気がしてならない。人の心に喜びを生まないのは、刹那的な欲望を満たす生き方であると思う。そのようなところに優しさは生れない。人間が辛いと思うのは、一方的に心を支配される時や、その逆で関心を寄せられない時である。春の自然にはそれがない。そこに生れる童謡にもそれがない。だから心が癒される。人は本来そのような心を与えられているのにも拘わらず自ら汚しているのかも知れないのである。


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Posted by okina-ogi at 07:48│Comments(0)日常・雑感
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