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2012年12月25日

『ビルマの耳飾り』悲劇の戦線

『ビルマの耳飾り』悲劇の戦線 著者 武者一雄 上毛新聞社 1200円(税込)

この本は、童話というより児童文学という範疇に入る作品である。戦争体験者として子供に、非戦の大事さを教えている。作者は、曹洞宗の寺の住職だった。平成20年に92歳で亡くなっている。その4年前の夏に、友人と武者さんを昭和村にある雲昌寺に訪ねたことがあった。その時署名入りでいただいたのが、この本である。帯の裏には
「人間は、おたがいに生き栄えなければならない。おたがいに殺しあう、あの阿呆な戦争を、もうこのへんでやめないと、やがて人類は滅びることになるかも知れない。1962・1・2 武者一雄」と書かれている。
当時、お訪ねした時のことを拙著『冬の渚』に書いている。

『ビルマの竪琴』の水島上等兵といわれて
                武者(中村)一雄さん(平成十六年・夏)
 今年も終戦記念日が近づいている。毎年、戦争を語れる体験者が少なくなっていく。『ビルマの竪琴』という映画を見た人は多いと思う。市川昆監督によって、昭和三十一年と平成五年に二度にわたって映画化されているが、竹山道雄の同名の児童文学作品を脚本、演出している。ビルマ僧に身を変え、戦死者の遺体を埋葬し、供養しながらオウムを肩に乗せ「埴生の宿」を竪琴で奏でる水島上等兵が主役となっている。
 この水島上等兵のモデルになった人が、群馬県の昭和村に今も健在だという話をある老人から聞いた。年齢は九十歳に近いだろうということである。名前は中村一雄さんといって、雲昌寺という寺の住職だという。中村さんを紹介してくれた老人もビルマ戦線から生還した一人である。
 〝インパール作戦〟という戦いの中で、多くの死者が出た。その死者は戦闘ではなく、多くは、飢餓や病気で死んでいる。インドへの攻略を企図して、ビルマからアラカン山脈を越えインパールを目指したのでその名がついた。十万人以上の兵員を動員したが、装備や兵站計画が不十分で、無謀な作戦として先の戦争に悪名を残した。
 七月二十五日、友人の音楽プロデュサーの滝澤隆さんと雲昌寺に中村一雄さんを訪ねた。彼を誘ったのは、この訪問に音楽が切って離せないと直感したからである。中村さんの住む雲昌寺は、上越本線岩本駅に近い橋から利根川を渡ってすぐの場所にあるが、当日は、関越自動車道を利用し、昭和村インターチェンジを降りて行った。〝雲昌寺の大ケヤキ〟という目印が地図にも載っていて迷うことはなかった。
 玄関は開け放たれていて、外から挨拶すると「どうぞ」と寺独得の高い座敷から中村ご夫妻が迎えてくれた。天井が高く、風通しも良く、暑い日であったが家の中は涼しい。中村さんは、高崎中学(現高崎高校)の卒業と聞いたが、同窓会名簿を調べてもわからなかった。その理由がわかった。元の姓は武者といった(以降、武者さんと書くことにする)。先代の住職の姓に変えていたのである。我々訪問者二人の母校の大先輩というご縁もあるが、年齢差は四十歳に近い。
「私が話すより、このビデオを見てもらったほうがよい」
と、NHKが約一時間にわたり放映した番組を見せてくれた。今から五年前、武者さんが八十三歳の時のものである。
 わかったことがある。竹山道雄の『ビルマの竪琴』はあくまでフィクションである。武者さんは、竪琴の名人でもなく、ビルマ僧に変身したわけでもなく、もちろん、あのオウムも肩にかけていたわけでもなかった。訪問前からも、水島上等兵を武者さんに重ねることはなかったが、僧侶としてのイメージは重なった。
 武者さんは、戦後ビルマ(現ミャンマー)を二十数回訪ねている。そして私費を投じて、捕虜生活を経験した収容所近くに小学校を建てた。奇麗な池があって、近くにパゴタ(仏塔)が建っている。これが最後の旅と、武者さんが創設した保育園に勤める次女とミャンマーを訪ねる様子をNHKはカメラに収めている。感動的なのは、多くの子供たちに迎えられる場面である。彼らの目に武者さんは仏さまのように映っている。
 驚いたことがある。武者さんは、児童文学者であった。『ビルマの首飾り』という作品は、武者さんの非戦の思想が綴られている。
秘伝の甲賀流忍法を駆使して敵を殺さず戦いを有利に進める福島兵長とマーチャという少女の間の約束は、「殺したら殺される」という仏教の不殺生の教えである。約束の印が首飾りであった。福島兵長は、最後は見方を助けるために突撃して死ぬ。マーチャは、イギリスの戦闘機の機銃掃射で打たれて死ぬ。戦の中で人を殺さないということは、なかなかできることではない。物語の最後の章は、「祈り」で結ばれている。昭和四十六年、講談社の児童文学新人賞を受賞している。『ビルマの星空』という小説も書いている。実録『ビルマの竪琴』と言える小説で初版は『生きているビルマの竪琴』というタイトルで出版された。この本がきっかけになって、武者さんが水島上等兵のモデルといわれるようになったのである。
 武者さんと捕虜生活をともにした人で、古筆了以知(こひつりょういち)という武蔵野音楽大学出身の下士官がいた。古筆氏は、戦後、東京フィルハーモニーのビオラ奏者として活躍し専務理事になったが、今は故人である。歌う部隊として武者さんを含めて二十数名の合唱団を指導し、収容されている各部隊を慰問したのである。無二の戦友であった。
「いろいろな歌を唄いましたね。日本の童謡。フォスターの曲。『埴生の宿』はイギリスの兵隊に聞かせたものです」
 榛名の梅を土産に持参したが、帰りには著書を署名入りでいただいてしまった。『恥書きあれこれ始末記』(一部~三部)あさを社、は平成十五年の出版である。武者さんの人生の集大成であるが、道元禅師と良寛の歌と句が紹介されている。


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