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2013年01月19日

『へたも絵のうち』 熊谷守一

『へたも絵のうち』 熊谷守一  平凡社文庫 1100円

 画家、熊谷守一は、昭和52年に97歳で亡くなっている。この人の原画を一度だけ見たことがある。その場所は、美術館ではない。数学者、岡潔宅の和室に飾られていた。というよりは、何気なく掛けてあったという感じであった。この部屋で、岡潔の講話を約1時間ほど聴いたのである。昭和52年2月12日の午後のことである。
その絵は、蟻が数匹描かれたもので、なんともシンプルな感じがした。岡先生は、この絵が気にいっていたに違いない。それよりも、熊谷守一という人が好きだったのかもしれない。熊谷守一と同時代の画家で坂本繁二郎という画家がいる。岡先生は、坂本繁二郎が好きで対談したことがあった。そのとき、すっかり心の働きが戻ったという経験をしている。3人に共通しているのは、無欲恬淡の人でありながら、自然をみつめる心の深さだろうと思う。
本の紹介になるが、昭和46年の6月から1か月、日本経済新聞の『私の履歴書』に連載された文章を編集したものである。この時、熊谷守一は、91歳で淡々と人生をふり返っている。自宅の庭に様々な草花や木を植え、鳥を飼いその生態をみつめながらこの狭い空間からほとんど外へ出ず老後を過ごしていた。若い頃は、健脚でスケッチ旅行をしていたが、晩年は小宇宙に造化の善意を感知するようにして絵を描いた。その絵が、「へたも絵のうち」だというのである。
30代から親友に、音楽家の信時潔がいる。信時の娘は、熊谷の息子に嫁いでいる。上手くはなかったようだが、チェロを演奏したり、音の周波数の計算に興味を持ったこともあったらしい。友人から依頼され時計も修理できる器用さを持ちあわせていた。また、無欲恬淡の人といったが、文化勲章や叙勲を辞退している。「これ以上人が家に来てもらっては困る」というのが理由だった。
現在、熊谷守一の自宅は、豊島区が管理する美術館になっている。近く訪ねて彼の絵を直に見てみようと思っている。


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