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2013年06月01日

『福祉を廻る識者の声』17(磯崎良誉)

聖母子像                   磯崎良誉
 聖母子像とは、いうまでもなく、聖母マリアと御子イエスの像である。中世以来さまざまに描かれ、また大理石などに刻まれて、キリスト教徒のあつい崇敬の的となってきた。
 新生会総合事務所の階下にある礼拝堂にも、一体の聖母子像がひっそりと安置されている。
大理石の生地の色を生かし、聖母子の御顔は勿論、御手足まで精緻に刻んだ御像は、小さいながらも荘厳で美しい。イタリヤで刻まれたと思われる御像は、ここに落ち着かれるまでに数奇な運命を辿れたようだ。
 私の知人K氏は、東京御茶ノ水に事務所を持ち、盛大に不動産業を営んでいる。本郷根津に六百坪の大邸宅を構え、百億といわれる資産を終戦後二十年間で築き上げた。元信用組合の本店であった事務所では、社長の机の上は勿論、背後の古めかしいマントルピースの上にも、不動産の資料が雑然と積まれていた。K氏は事務所の隅までとおる大声で従業員に命令し、叱りつけた。休日には特注の鰐皮製のバックを愛用のリンカーンに積み、ゴルフにでかけるのであった。
 私は裁判所時代の知人の紹介でK氏を知り、時に不動産取引にからむ訴訟を担当した。ある時社長席の背後のマントルピースの上に奇妙な置物があるのに気付いた。不動産の資料に半ば埋もれ、埃を浴びていたが、それがまぎれもない聖母子像であることを知って驚いた。ある事件が解決し、上機嫌のK氏に「事件の謝礼にかえてあの聖母子像を貰えまいか」と私は切り出した。K氏は大声を上げて笑いながら「磯崎先生、あれは駄目です」とキッパリ言い、「私だってあの置物の値打ちはチャンと知っています」といわぬばかりの表情をした。ところが数カ月後、突然聖母子像が私宅へ届けられた。K氏は「この置物は、ある医者から担保に取った屋敷に残されていたもので、ドイツに留学した医者があちらから持ち帰ったものでしょう」と話してくれた。私は、聖母子の精美そのもの、御顔を近々と拝し、御像が辿られたであろう遠き旅路の道程と永い歳月にしばらく思いをはせた。
 
磯崎良誉(いそざきよしたか)。一九三六年東京大学法学部卒。社会福祉法人新生会、財団法人榛名荘顧問。社会教育団体心の家代表理事。弁護士。             (昭和六十二年・春号)

起工式                 (昭和六十二年・春号)
春の雨あがりの土の黒さ、そこから伝わってくる暖かさは、心に沁みてくるものがある。大地には犬ふぐりが可憐な花を無数につけ、梅香ハイツの梅も薄紅色の花を香り豊かに咲かせている。まさに春たけなわ。
三月十七日、ジョージが丘三ホーム(恵泉園・エンジェルホーム・新生の園)の起工式が行われた。旧榛名春光園の建物が壊され、整地された土地に新しい建物の輪郭が杭を結ぶテープによって浮かび上がった。新生会三十周年事業の最後を飾るのにふさわしいスケールの大きさを感じる。
〝二十一世紀の老人ケアモデル〟(原慶子常務理事)への想いがこの施設群に込められている。ここまでの道のりに多くの難関があり、雪解けが久しかっただけに関係者には感無量のものがある。来春、榛名春光園跡地は、まさに新生の地へと転換する。(翁)


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Posted by okina-ogi at 06:53│Comments(0)日常・雑感
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