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2013年07月09日

『福祉を廻る識者の声』58(近石真介)

似たもの同志                 近石真介
 最近、老人ホームの職員の方々と役者とは似ている事に気がつきました。ホームのご老人達とその家族、そして職員の生活を描いた〝そしてあなたに逢えた〟の上演に向けて再三私達劇団東演の皆が新生会をお訪ねし、原慶子さんを始め、鈴木育三さん、長坂寿也さん、その他職員の皆さんのお話、仕事ぶりにふれて思ったのです。それは共に「人間が好きだ」という事です。
 「優れた役者は優れた観察者であり、人間に対する鋭く、深く、繊細な観察力を持っている。その観察力が、この世の中何もかもが入っている人間、こいつが好きで好きでたまらない所から生まれたものならば、間違いなく優れた役者だ」と、ある高名な演出家は言っています。役者の仕事は戯曲の中に描かれた人間を頭だけでなく自分の肉体を使い立ち上らせることであり、体で理解する事が求められるだけに〝人間を全身で受け入れる〟〝人間好き〟ということがとても大切なのです。
 私達にご老人達の過去を、現在をそして様々なエピソードを話してくれた時、ひとりの老人の言動について夢中になって議論し、喜んだり悩んだりしている時の職員の人達は、一世紀近く生きてきた、この世の中の何もかもが入っている老人が好きで好きでたまらない役者の様に見え、更に次の名セリフを全身で理解出来る名優の様にも見えたののです。
 『人間、こいつはどでかいものだ。この世の中の何もかもが中に入っている。一切の始めと終りがこの中にある。だから人間を哀れんだり、妙な同情でいやしたり軽蔑したりしちゃいけねえ!人間はお前が考えている以上に高尚なものなんだ!もっと人間を大切にしなくちゃいけねえ人間!こいつは素晴らしいや!人間の為に乾杯しようじゃないか』(M・ゴーリキー作「どん底」三幕。前科者で浮浪人サーチンのセリフより)
 最後に、似た者同志の明日を祝して乾杯!
 
近石真介(ちかいししんすけ)。一九三一年、東京都生まれ。早稲田大学文学部中退。劇団東演主宰。テレビのナレーション、声優としても活躍。夫人は脚本家。          (平成九年・秋号)


胡弓                    (平成九年・秋号)
胡弓は、中国の代表的な民族楽器である。中国では、京劇で使われたり、庶民が弾くことも珍しくない。〝胡〟は、中国の人たちにとって西方の人の意味を持つ。今から約一五〇〇年前に、シルクロードを渡ってきたペルシャ人が伝えたというのが定説である。夜は恐ろしい程に静寂で、荒涼とした砂漠の中を、故郷を遠く離れて孤独な旅を続けなければならない人々にとって胡弓の音は、心をいやしてくれたに違いない。
東京紀伊国屋ホールで演じられた、劇団東演の「そして、あなたに逢えた」を観劇した後の余韻としてふと胡弓が浮かんできた。痴呆症のお年寄りの世界を見つめてきた近石綏子さんの優しさと、深い個人史を持ったお年寄りの心の世界は、長い時を経て深遠な音色を生む胡弓を連想させる。近石さんの〝痴呆の心〟を求めた旅は長いだけに、深い感動を観客に与えている。(翁)


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Posted by okina-ogi at 07:11│Comments(0)日常・雑感
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