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2013年07月31日

終の住み家を老人ホームに定めた人々8

写真はお断り        我妻緑さん(昭和六十三年・夏号)
 我妻栄といえば、法律関係では知らぬ人がいない程有名である。法律図書の多くに〝監修 我妻栄〟の名前があるのを見かけるはずである。東京帝国大学法学部時代、岸信介元首相と同級であり、その頭脳は、一・二位を争うほどだったという話は巷でもよく知られている。
 我妻緑さんは、我妻栄博士の奥様である。ご主人の事から先に紹介するのは、はなはだ不敬ではあるが、お許し願いたいと思う。「博士は、どんな方でした?::明治生まれの方だから気骨があって厳格な方だったでしょうね」と推測的質問をすると、ひと言
「やさしい人でした」
と胸の奥から想いを込めておっしゃった。
 我妻緑さんは、真新しい「新生の園」の三階にお住まいである。入居してから約半月が経過したが、「ここでの生活に満足しています」とすっかり新しい環境に慣れ、生活を楽しんでおられる様子。数カ月前に田村大三氏の〝指笛コンサート〟の催しの企画があることを話すと嬉しそうに頷かれた。
 我妻さんの育った家庭は、音楽一家で、ご本人も音楽の愛好家である。語学に堪能で、フランス語、英語は相当使いこなされたようである。十年近く、パリでの生活も経験されている。ご子息の我妻洋氏も著名な文化人類学者、心理学者であるが、インターナショナルな我妻家の空気を吸って育ったからかと、なるほどとうなづけるところがあった。「メガホンの講義」(文藝春秋社・我妻令子・加藤恭子著)で癌と闘い、父栄博士を学者として生涯尊敬し、乗り越えようとした洋氏の顔が、緑さんの顔に重なるように思えた。
 〝文化としての福祉〟を標榜する「新生の園」に我妻緑さんの存在はピッタリな気がした。(翁)


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