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2013年11月29日

『侘助』(拙著)小さな大人(たいじん)(上)

小さな大人(たいじん)
 JR高崎線の深谷駅には、渋沢栄一の生誕地であることがわかる大きな看板がある。いつ頃からあるのか調べたことはないが、それほど昔のことではないに違いない。駅舎は、煉瓦造りになっていて多分に東京駅を意識している。明治初期、文明開化の名のもとに、西洋風建築が出現した。その建築素材が煉瓦である。明治期の著名な西洋建築に使用された煉瓦の多くは深谷で製造されたのである。
 
 この煉瓦製造に深く関与したのが、渋沢栄一である。明治政府は、富国強兵をスローガンにしたが、富国の代表的な事業が、官営富岡製糸工場の建設である。今日、群馬県民の熱き願いが、世界遺産への登録に向けて歩み出させている。当時の建物が、民間に払い下げられた後も良く保存されている。渋沢栄一は、一時期、大蔵官僚になったことがある。富岡製糸工場の建設は、明治三年に発案され、二年後に完成した。この構想に渋沢栄一は関わった。初代の工場長が、尾高惇忠(あつただ)である。この人物には、説明がいる。渋沢栄一からみれば従兄にあたり、義兄になる。渋沢栄一の妻は、尾高惇忠の妹だからである。水戸学に精通し、論語を栄一に教えた師でもある。号を藍香といい、陽明学であったから、攘夷家としてかなり過激な行動もした。高崎城乗っ取り、横浜の焼き打ちなどの攘夷を目的とした計画を渋沢栄一らと策謀したこともあった。彼の末裔には、著名な音楽家が出ている。
 富岡製糸工場の外観を埋める煉瓦は、深谷で製造されたものではないが、深谷地区では、瓦製造の技術があった。加えて、煉瓦に適した粘土質の土が採れた。明治二〇年に日本煉瓦製造会社が操業を開始するのであるが、瓦から煉瓦製造の準備期間があったのである。関東ローム層と利根川の氾濫により、煉瓦に適した粘土質の土ができたのかもしれないが、渋沢栄一の生地には「血洗島」という恐ろしげな地名が残っている。しかし、「血」を「地」に変えてみると納得がいくのである。
 政権交代があるかもしれない、衆議院選挙の投票日となった八月三〇日の日曜日に、車でこの地を訪ねたのであるが、深谷市は、群馬に近く、利根川を渡れば群馬県である。平成の町村合併で太田市になっているが、対岸の世良田地区には、新田義貞、徳川家祖先の地としての史跡や神社仏閣が残っている。
 
 平成七年に渋沢栄一記念館が完成した。総工費一〇億円近い建物で、農業農村活性化農業構造改善事業という長たらしい目的のため、国の補助金を多く受けて作られている。多目的な使用が可能な建物にはなっているが、かなりの面積を、渋沢栄一の展示コーナーが占めている。確かめたわけではないが、元教員と思われる解説員が親切に説明してくれた。渋沢栄一は、身長が一五〇センチ程しかなく、展示室の入口に等身大の若い時の写真があったが、中高年には少し肉付きが良くなり、建物の裏側にある銅像は、なんとも親しみ深い体形になっている。解説員の体型も、どこか渋沢栄一に似ている。人柄も渋沢の好々爺のような雰囲気がある。五〇〇以上の会社の設立に関わり、多くの慈善事業に貢献し、大学設立の資金的な協力者になったエネルギーが、この小さな体から生まれたと思うと頭が下がる。解説員の次の説明に、ちょっとしたヒントを得たような気がした
「渋沢栄一という人は、趣味やこれといった道楽はなく、仕事が全てのような日々を送った人でした。たまに『知人のところに言ってくる』と、奥さんに告げて外出するのが息抜きのようなもので、家にいる時は、ほとんど仕事関係の来客に応対していました。それに、知人というのは女性のことで、奥さんも承知していたようです。二度の結婚(死別による)、内に外に二〇人ほどの子供さんをつくりなさった方です。夫人に『あなたは、キリスト教ではなく、論語の信奉者でようござんしたね』と皮肉られたという話も伝わっています」
人との交流の中に、偉業を成し遂げた人物ということになるのだろうが、それだけでは十分な説明にならない。


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