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2014年11月26日

『ホタル帰る』 赤羽礼子 石井宏著 草思社




俳優の高倉健さんが亡くなった。83歳というが、老人という感じがしない役者であった。高倉健が主役で出演した映画に『ホタル』がある。2001年に上映された。鹿児島の知覧に旅した後に観たので、印象的な映画になっている。昨日(11月25日)NHKのBSで放送された。脚本も良いのだが、健さんのせりふが渋い。映画『ホタル』の元になった話は、この本の中に多く語られている。著者である赤羽礼子は、特攻の母と呼ばれた鳥浜トメの娘で、出撃前の特攻隊員の思い出を石井宏に伝え、共著というかたちになった。
 映画に重ねるようにして、紀行文に書いた。本の紹介にもなっている。

拙著『春の海』 薩摩への旅より抜粋
 映画「ホタル」が上映されている。鹿児島の旅から帰り、その余韻がホタルの光りほどになった頃見たのである。主役は高倉健、特攻隊員の生き残りを演じている。監督は降旗康男で、大ヒットした「鉄道員(ぽっぽや)」のコンビである。朴訥で寡黙な高倉健のキャラクターが生きている。
 知覧特攻基地の近くに食堂を経営する鳥浜トメという女性がいた。店の名は冨屋食堂。トメは「特攻の母」と隊員から慕われた。平成四年八十九歳の生涯を閉じた。富屋旅館は、特攻隊員と肉親との最後の別れの場所であり、隊員同士の束の間の憩の場でもあった。トメは、店が軍の指定の食堂にもかかわらず蓄財するどころか、隊員の死出の旅立ちに旅費をさしだすようにして隊員をねぎらいふるまった。戦後は、彼らの供養のために、今日の「知覧特攻平和会館」建設の呼び水の働きをした。映画「ホタル」のヒントは、鳥浜トメに特攻隊員が残していった肉声の記憶にあった。
 宮川軍曹(戦死して少尉)は、出撃前夜、富屋旅館に来て、
 「明日は沖縄に行き、敵艦をやっつけてくる。帰ってきたときは、よくやったと喜んでほしい」と言った。トメは、
 「どんなにして帰って来るの?」
と尋ねると
 「ホタルになって帰ってくる」
と彼は言ったという。
 宮川軍曹が出撃した日の夜、次の出撃を待つ隊員が富屋旅館を訪れていた。そこに一匹のホタルが舞い込んできた。本当に宮川軍曹がホタルとなって帰ってきたと皆が口々につぶやき、見入っていた。映画「ホタル」の題名はこのエピソードから生まれた。
 特攻隊員の中には、朝鮮出身の者もいた。故国の民謡「アリラン」をトメの前で泣きながら歌って出撃していった、光山博文少尉。映画「ホタル」の金山少尉のモデルとなった。
 戦死した金山少尉の許婚(いいなずけ)が山岡知子である。知子を演じるのは田中裕子である。気丈さと、あどけない女性の雰囲気を出している。金山少尉のまさに出撃するときに「一緒に連れて行ってほしい」と泣きすがる知子と、未練もありながら飛び立っていく金山少尉の別れの場面は、男女の愛の美しさと辛さを表現していている。戦後、金山少尉の部下であった山岡曹長は知子と結婚する。同情で結婚してほしくないという知子も山岡の愛を受け入れていく。山岡も生き残りの苦しさを秘めながら漁師として生きていく。知子の命は、腎臓の病気で一年余しかないと山岡は医師から告げられていた。韓国に住む金山少尉の遺族に、出撃前に少尉が語った遺言とも言える言葉を伝える決意をする。開聞岳が見える波の打ち寄せる海岸で聞いた言葉を。その内容は、
 「トモちゃんありがとう。明日は出撃します。私は、日本帝国のために死ぬのではありません。朝鮮の家族のため、トモちゃんのため民族の誇りをもって死にます。トモちゃん万歳、朝鮮民族万歳」
 トモちゃんとは山岡の妻のことである。この金山少尉の言葉は、もう一人の部下であった藤枝伍長が聞いていたが、彼は既にこの世にはなく、金山少尉の生きた証を知るのは山岡だけだった。過去を語ろうとしなかった山岡だが、特攻体験者として尋ねられると、
 「生きているもんも、死んだもんも前に向って進んでいる」
と鹿児島弁で、若い記者にポツリという。「月光の夏」、「ホタル」という特攻にまつわる物語は、人の死から逆にいかに生きるかということを考えさせられる。


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『ホタル帰る』 赤羽礼子 石井宏著 草思社
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