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2014年12月23日

『雪国』 川端康成著 新潮文庫 362円+税




「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」というこの小説の書き出しが有名だが、どんな内容なのか。映画化もされているようだが、観る機会もなかった。越後湯沢に、友人が長期宿泊しているので、再会するために出掛けることになり、この小説を読むことにした。長編小説と思っていたが、それほどの長さではない。
『雪国』の舞台は、越後湯沢で、川端康成は高半旅館で執筆したとされている。当時の建物は、取り壊されて今はないが、執筆した部屋は残されているという。湯沢駅には、主人公ともいうべき駒子の像がある。土産物にも「駒子もち」という菓子が売られている。
東京に妻子がある島村という男が、息抜きのようにこの温泉町に泊まり、そこで出会った駒子に心を寄せるようになり、何度となくこの町を訪ねる。島村と駒子の会話と描写が小気味よく繊細に描かれている。島村がもう一人気にかけた女性がいて、葉子という芸者である。小説の初めに描かれているのは、列車の中に病人のような男性と葉子が寄り添っている場面である。暮れかかる列車の窓を鏡にした描写である。このあたりが、川端康成の感性なのだろう。そして、小説の最後にも葉子が登場する。おそらく焼死したと思われる葉子の姿を描いている。
この小説が書かれたのは、昭和10年前後で川端康成は30代だった。思想や表現の自由が制約されたであろう時代に書かれた小説ということも頭に入れて読んでみた。島村という男性は、川端自身を意識したものではないとされているが、果たしてそうだろうか。幼くして両親と死別し、成人する前に祖父や姉を失い天涯孤独のように生きてきた川端康成の心理の考察もしてみたかったが、あまりにも荷が重い。結婚生活に満たされなかった、家庭的になれなかった川端康成というのは、俗的な見方かもしれないが、そんな気持ちもした。ノーベル文学賞を受賞したが、70歳を過ぎホテルで独り死んだ作家である。自殺だったかどうかは、明らかではないようだが繊細な心理を持った作家であることは理解できた。しかし、他の作品を読んでみようという気はしない。
今回、越後湯沢を訪ねたのは、島村のように女性に会いに行ったわけではない。大学教授をしている友人がいて、国家公務員共済組合の経営する宿を予約してくれたからである。彼もこの小説は、読んでいるらしく宿での話題にはなった。名作には違いないのだろうが、それほど心に沁みて来るものはない。滞在中二度読んでみたが、感想は同じである。


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