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2015年01月10日

憂国の人吉田松陰




 NHK大河ドラマ「花神」(司馬遼太郎原作)を見た。〝春夏秋冬〟という題がついていた。明治維新の夜明けに導いた吉田松陰(寅次郎)の最後である。
   身はたとひ 武蔵の野辺に
         くちぬとも 留め置かまし大和魂
 死にゆく人間の気概がこの辞世の歌にこめられている。けれども、何か自分の天分を全うした人の安らぎが感じられる。下の句は、生に対する執着から発したものではないだろう。彼自身が消え去った後の行く末を展望し、遺志を継いでくれるものへの期待だけがある。教育者であり思想家であった松蔭の善意が込められている。〝大和魂〟という、この歌の最後の表現は、日本という国を愛する一人の人間の赤裸々な気魂として捉えたい。
 この歌を私なりに意訳してみよう。
「私という人間が、たとえ武蔵の国の刑場と露と消え去ったとしても、生涯にわたって愛してきた日本を想う気魂がいつまでも残され継続されていってほしい」
〝花神〟の篠田三郎松蔭を見る限り、今はこのように理解したい。
 牢獄で、高杉晋作に宛てた手紙には人を思いやる教育者の愛情が感じられた。決して自分の思想に同調することを強いていない。高杉の地位の高い家柄の子としての条件を考え、官僚として生きることを説いている。スケールの大きな人格者だ。自分に誠実で、嘘のつけないこの人物を、安政の大獄という〝保守的な悪政〟のなかで死罪に至らしめたのは、つきつめてみると、思想と言うより、むしろ松蔭自身の内側のもの、人格にあったのかもしれない。原作者の目にはそう写ったのだろう。画像に躍動する篠田三郎という役者は、そんな松陰を演じている。
また松蔭の歌には
   親思ふ 心にまさる親心
        今日のおとづれ 何ときくらん
というのがあるそうだ。江戸に罪人として向かう前に、涙をこぼしながら、息子寅次郎の背中を流すやさしい母親がいた。そして賢父が。素直そうな妹も。この歌が、儒教的な道徳観を感じさせないのは、背後に、こうした安らぎのある家庭があるからであろうか。
 

牢獄の中で、松蔭が死罪を予感したとき、親しい牢名主の男に言う。
 「私は、百姓と同じように生まれた人間だ。春には色とりどりの花が咲き、夏に植えられた稲は、秋に実を結ぶ。そして冬が来てまた春がやってくる。そんな自然の中で私は生きてきた。人間皆、そうした四季の中に生きている。三才で死ぬ人にも四季がある。老いて死にゆく人にもそれなりの四季がある。そう想像してみると心が安らぎます」
 二重写しになった画面には、松蔭の顔が、大きく写り、そしてその背景には、秋の風に揺られ、たわわに実を結んだ稲穂が写し出された。
 「しかしながら、これから先、どうなっていくのかは私にはわからない。見えない。ただ怒濤の時代が待っているような気がする。その時に生きていられないことは残念だが、人は年若くし死ぬ者もある。死は望むべきものではないが、また生も甘んずるものではない。両者推し計って比べることはできない。しかし、死んでも悔いのないところまで生きれば死も決して辛いものではない。近頃は気分が落ち着きます」
と言って、男に牢獄の中で記した冊子を渡す。そして
「あなたが娑婆に出たら、これを〝長州藩〟の人に渡してやってください。念のために二部作っておきましたから」
男は松蔭の言葉を聞きながら、感動して涙がとまらない。顔を歪めて泣いている。
「約束します。〝長州藩〟の人ですね」
と念を押した。
 この記録書の名前は忘れたが、手渡された男は、三宅島での刑を終えて、明治八年に約束を果たすことになる。実に、十数年という長い年月であった。牢にあっても、人の心をうたないでおかなかった彼の人格のなすところであった。実に象徴的な場面であった。その記録を読んでみたいものだ。思想を知るためではない。人を知るために。今日は久しぶりに日本人らしい心を持った人の生き様を見た。感動している。
(昭和五十二年三月二十七日 日記より)


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