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2015年05月08日

東京、信州日帰り旅行(2015年5月)

 五月連休の最後の日、都会と田舎を日帰りで旅行しようと思い立った。北陸新幹線を利用するとそれが可能である。毎年のように、信州の春を所を変えて味わっている。大分行く場所も限られてきたような気がするが、上田市に近い別所温泉には行っていない。一泊するならば友人を誘いたいと思ったが、先方の都合がつかない。上田までは、新幹線を使えば、安中榛名駅から三〇分で行ける。別所温泉駅の近くに、「あいぞめの湯」という日帰り温泉があるが、長時間のんびりして過ごす気分にもならない。意外にせっかちな性格なのかも知れない。
 東京、上野の東京国立博物館で特別展が開催されている。京都、高山寺の至宝が展示されている。高山寺には、時代祭に合わせ訪ねたことがあるが、国宝級の本物に触れることはできず、今回の企画は是非とも足を運びたい企画である。とりわけ、鳥獣戯画は、国内にない物もあり、特別展の目玉にもなっている。上り新幹線あさま号で安中榛名駅から八時五分発で上野に向かう。九時半の開館前に間にあったが、来館者が多い様子なので、隣接する黒田記念館に立ち寄ることにした。
 黒田記念館は、日本の西洋絵画の草分けとも言われる、黒田清輝を記念して建てられた。東京芸大にも近い。黒田清輝の死後の建築で昭和三年の竣工となっている。設計者は、岡田信一郎で、初代東京都美術館を設計した建築家でもある。開館には少し早いと思ったが、受付もなく自動ドアが空いたので入館すると、係員に呼び止められ、五分程待ってくださいと廊下にあった椅子に座るように指示された。その間、入口近くに表示されている記念館の説明書きを読むことができた。黒田清輝の遺言と遺産をもとに建てられたのだが、その遺志を託された人物がいる。樺山愛輔、牧野伸顕である。樺山資紀、大久保利通をそれぞれ父に持つ薩摩閥である。樺山愛輔の娘は、作家の白洲正子である。明恵上人の著作もある。黒田清輝も薩摩藩士の息子で、黒田清輝は、芸術家でもあり、貴族院議員となって政治力もあったことの背景が見えたような気がした。係員によると、東日本大震災後、耐震工事が為され、最近完了して入館できるようになったのだという。入館料は、無料である。二階が展示室になっている。展示室の入り口の前には、黒田清輝の胸像があった。作者は、高村光太郎である。ゆっくり鑑賞している時間もないので足早に見て回り、東京国立博物館に向かう。
 


こちらも入館料は無料。年間パスポートを持参しているので有効期限まで年六回まで無料になる。ところが、入場待ちの長蛇の列になっている。最後尾から入館まで八〇分となっている。入館しても三〇分しか時間が取れない。しかも、上田行きの新幹線に乗るための移動時間も考えておかないといけない。さらに、たたみかけるように
「入館後、鳥獣戯画を見るために一時間待ちになっております」
という係員の非情なアナウンスが。黒田記念館で道草を食っている場合ではなかったのである。熱中症にならないように日傘の貸し出しや、水の用意が為されてあったが、気持ち的には、目眩が生じていた。予定より、三〇分ほど早く入館できたが、案の定、鳥獣戯画をじっくり見ることは叶わなかった。普段は買わない図録で済ませることになった。多くの人が鳥獣戯画に惹きつけられているお陰で、もう一つの高山寺の秘宝をゆっくり見ることができた。
 「仏眼仏母」は、国宝である。明恵上人が若い時、この仏画の前で耳を切ったその画である。決して衝動的な行為ではないとしても驚きである。明恵上人は、幼くして母親と死別した。武士であった父親も母親の死後すぐに戦死している。この行為は、そのことと無関係ではないと言われている。その後の明恵上人像には、横顔を描いたものがあるが、切り落とされた右耳を配慮してか、同じく国宝である「樹上坐禅像」は、左向きになっている。しかし、大阪の久米田寺にある明恵上人像は右向きに描かれ、耳の上部がないのがわかる。


「樹上坐禅像」に戻るが、明恵上人の姿は大きくない。樹木の中に溶け込むようである。小鳥や、栗鼠もどこにいるかは分からないくらいだが、明恵の心の中にあるようである。小鳥と会話ができたと伝えられる、アッシジの聖人のようでもある。こちらは、国宝ではないが、木の彫刻の子犬も愛くるしいほどの出来栄えである。高山寺の国宝石水院で出会った子犬に再会したが、レプリカとは違う雰囲気がある。明恵上人は傍らに置いて愛玩していたらしい。日本人に明恵上人が好きな人は多い。この企画で明恵上人フアンが増えるのではないだろうか。
鳥獣戯画と関連して白描図像の存在を知った。密教図像のことである。ムハンマドの偶像を描くことで、テロ事件が起こっているが、仏教画の一つだが、墨と紙だけで描かれていて極めて素朴だが味わいがある。白描図像を素地にして自然界の動物たちを擬人化し、それに躍動感を加えたのが鳥獣戯画の誕生になっているのではないだろうかという推測である。その発想を明恵上人の思想が促したというのも納得のいく解説である。
 時間の余裕を持って、上野駅の新幹線ホームに向かったが、地下深くにあることもあり、案内標識も分かりづらくて発車時刻五分前にたどり着く。駅弁とお茶をホームの売店で購入して乗り込む。連休中だが、上野に向かう新幹線同様空席が多い。〝行きは良い良い帰りは怖い〟と思っていたら、上田から安中榛名の下りは、通路に立ちっぱなしになった。想定内ということだが、長時間でなかったので救われた。連休中の新幹線の乗車模様を観察できたのも一つの新鮮な体験となった。
 

上田駅には、午後一時頃到着。帰りの新幹線は、午後五時四六分。この間が、毎年恒例の信州の旅となる。新幹線上田駅に隣接して上田電鉄駅がある。別所温泉駅までは、各駅停車で三〇分余り。家のすぐ横を走り、田園地帯の中を走る。春の長閑さがある。田植えの時期には少し早い。上田の盆地も広い。佐久平ほどの広さはないのだろうが、内陸の盆地としてはかなりの広さである。塩田平という地名を目にした。
 上田駅から別府温泉駅の途中に大学前という駅がある。近くに長野大学がある。社会福祉関係に進む学生を多く輩出する私学で、戦後の創立だが五〇年の歴史がある。この大学に教授として就任した森幹郎先生のことを思い出した。数年前に、故人となられたが、多くの教えを受け、尊敬する人物の一人である。先生は、名古屋大学の経済学部を卒業したが、自身が結核療養をしたことや、身延山の久遠寺の階段で見たハンセン氏病の患者の姿に衝撃を受け、国立のハンセン氏病療養所に勤務したのを皮切りに、生涯社会福祉の道を歩んだ人である。福祉の現場から、厚生省の老人福祉専門官になり、老人福祉法の制定に尽力した。退官後最初に赴任したのが長野大学だった。専門は老年学だった。福祉政策にも詳通し、昭和三〇年代以後の日本の老人福祉に貢献している。森先生を尊敬するのは、持論を老年期に実践し、そのお姿を身近で拝見し、間接的ながら御教示いただいた時の御人柄に触れたことである。決して経営のことには口を挟むことなく、一人の入居者として、老人施設で亡くなった。社会的介護の持論どおり、子供の世話にならず自己完結の老後だった。
 

別所温泉は、信州の鎌倉とも呼ばれている。古くから温泉地で、日本武尊の東征にまつわる伝説もある。清少納言の枕草子に名前は違うが紹介されているという。帰りの電車に乗るまで二時間もあるので、安楽寺に向かう。この寺は、禅宗の寺だが、国宝の塔がある。この日帰り旅行は、敢えて共通点を上げようとすれば国宝を見る旅ということになる。安楽寺の裏山にこの塔は建っている。明恵上人没後の鎌倉末期の建立だという。屋根が八角になっている。周囲は墓地である。文人も訪ねたらしく、島木赤彦や窪田空穂の歌碑があった。この寺で多くの禅僧が修行し、鎌倉幕府の庇護もあったというから、別所温泉が信州の鎌倉と呼ばれていることの一因である。シャガの花が、森かげに咲いて美しい。土産の一つも買わねばならないと歩いていると「山海煮」という佃煮の店に目が行く。創業は明治三二年と書いてある。海と山の食材を使っている。試食させてもらったら結構美味い。


せっかくの別所温泉。お湯に入らない手はない。湯船からは山の緑が近く、眺望も良い。ゆっくり浸かり連休を締めくくることができた。上田駅に着いたら、時間があるので上田城に立ち寄ることにした。駅からは近そうで遠い。戦国時代、真田氏が二度にわたり、徳川の大軍を退けた名城として知られている。なるほど、堀は深く二重になっている。町のあちこちにポスタ―が貼られ、平成一六年の大河ドラマは、真田氏がとり揚げられるようだ。しかし、列車を利用したが、良く歩いた旅になった。家に帰り、携帯電話に記録された歩数は一五〇〇〇歩を超えている。何回か履き慣らしたつもりだったが、下ろしたての靴のため足に豆ができてしまった。


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