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2015年08月28日

『武士の碑』 伊東潤著 PHP研究所 1800円(税別)

鹿児島に住む友人の推薦図書である。奥様が、薩摩の武門の出ということもあり、薩摩の歴史に関心を寄せられている。島津斉彬、西郷隆盛といった歴史に名高い人物はもちろん、薩摩の郷土史も研究しておられる。
西南戦争に加わり、鹿児島の城山で亡くなった村田新八を主人公として、西南戦争を描いている。西南戦争は維新後の最大の内戦で、それ


以後、内戦はなく、武士社会の終焉となっている。タイトルは、その意味である。
小説の展開に工夫がある。一つは、主人公の終焉の場面を書き出しにしている。そして最後にも、その場面の再現がある。死に場所がテーマになっている。それは、西郷隆盛の場合も同じである。また、西南戦争の戦場にあって、庄内藩から従軍した、若い武士に、フランスに視察団として行った時の回想を語る。その回想が、戦いの合間に挿入されている。とりわけ、パリで出会った若い女性との思い出が、注意を惹く。と言っても、色恋の話ではない。たまたま、パリの路上で、子供に財布を盗まれ、追いかけて行った先に、病を得た女性がいた。貧困の中、やせ細った女性である。画家クールベの娘という設定である。転居して、所在が不明になるが、居酒屋で出会った男を通じて探し出すことができた。この男は、小説家のゾラである。村田新八がフランスに渡ったとき、この二人の会った記録があるわけではないから、あくまで作者の創作である。


女性の死が近いと知ると、最後の望みを叶えるように、彼女の生まれた海辺の町に、馬車を走らせる。パリから遠い町である。ゾラも同行する。彼には、村田新八の行動が奇怪に写る。何の得もない。日本人は不思議な人種だと思う。新渡戸が『武士道』で書いている憐憫の情とも言えるが、作者は、孔子の教えと書いている。臨終の時、彼女から習い、譲り受けたアコーディオンのような楽器で彼女の好きな曲を弾く。涙を流しつつこと切れる。
村田新八は、この楽器を戦場に携帯している。西郷隆盛の死を見届けた彼は、一人楽器を弾いている。官軍の兵士に取り囲まれるが、無言のまま弾き続ける。そして、投降の呼びかけを無視し、射殺される。これも、作者の創作であろう。西郷隆盛は、銃弾にあたり、別府晋介の介錯によって死んだというのが定説になっているが、ここにも作者の創作があった。その内容は敢えて書かないことにする。
感想になるが、維新の元勲である西郷隆盛と大久保利通が対照的に描かれている。政治に対し、非情なまでに非情なのが、大久保である。ただ、情を抑えている。薩摩の人だから。その二人を和解させることができるのが村田新八であったはずである。それは叶わなかった。情という不可思議なもの。知情意というが、人は情という心の働きが納得しないと行動にならないのだろうと思った。情の厚さは薩摩人の独特な気性なのかもしれない。


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