2015年11月06日
『辛酸』 城山三郎 角川文庫 390円

足尾鉱毒事件に半生を奉げた田中正造を描いた作品である。昭和34年に出版された小説で、公害問題が社会的な問題になる前ということもあり、城山三郎の先見性に驚かされる。城山作品は数多く読んでいるが、取り上げる人物に共通点がある。それは、私心の少ない人物ということである。
ここ数年、渡良瀬川の流域を訪ねることが多く、足尾の存在が気になってきた。何を主たる産業にしているのか詳しくは知らないのだが、足尾の町は残っている。近く、観光を兼ねて、足尾銅山の歴史を見聞したいと思っている。田中正造に戻るが、妥協のできない生き方に驚きを隠しえない。権力に屈しない、公害被害者とともに生きることに全体重をかけている。地位、名誉、金に執着するような人生ではない。第一回の衆議院議員に当選し、6回も選出されている。晩年は、議員を辞職して谷中村の住民と闘う。小説は田中正造の晩年と、死後の住民運動を描いている。
田中正造の死は、大正2年の9月であった。社会運動家として知られる木下尚江が看取っている。田中正造のことは、小説『安曇野』に登場するこの人物を通して記憶に留めたのかも知れない。
Posted by okina-ogi at 12:03│Comments(0)
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