2016年06月15日
『我が家の昭和平成史Ⅰ』塚本哲也著 文芸春秋企画出版部 4000円(税込み)
1巻2巻に別れ、およそ1000頁の大作である。副題がついている。「がん医師とその妻、ピアニストと新聞記者の四重奏」。著者は、元毎日新聞記者である。ヨーロッパに駐在した期間が長く、妻がピアニストでもあったこともあり、オーストリアの歴史、風土、文化に詳しい。ハプスブルグ帝国のゆかりの人物をテーマにした著作も多い。
縁あって、私の勤務する有料施設にご夫婦して入居された。平成15年のことである。ご夫婦共に、脳出血を患い、退院後著者が、大腿骨を骨折し、歩行が不自由になったのを機に、終の棲家を有料施設に選んだのである。その理由は、ご本人に確かめたわけではないが、岳父である癌の放射線医療の権威で、国立がんセンター総長だった塚本憲甫の親族が、同じ法人が経営する施設を利用していたことと無関係ではない。私が、勤めた30年以上前に塚本憲甫の姉君が入居されていた。品のある柔和なお人柄の御仁だった。
著者が施設に入居した翌年、最愛の妻であり、著名なピアニストであったルリ子さんが亡くなった。そうした悲しみの中、大作『マリー・ルイーゼ―ナポレオンの皇妃からパルマ公国女王へ』(文芸春秋)を半身麻痺が残る不自由な体でパソコンを駆使して書き上げた。更に、『メッテルニヒ―危機と混迷を乗り切った保守政治家』(文芸春秋)を出版し、今回の著作が3作目になる。文筆家とは言え、尊敬に値する。
タイトルから想像するに、自伝のような趣があるが、以前『ガンと戦った昭和史』の作品を読み、新聞記者の取材能力を感じていたし、著者の目から見た昭和、平成史を興味深く読めると思った。第1巻を読了したところだが、期待通りである。東西冷戦、ベルリンの壁、プラハの春など身近に取材したその時代の様相が生々しく記載されている。そして妻と共に見たウイーンやチロルの美しい自然などは、2度オーストリアに行った思い出と重なり懐かしく思った。何よりも素晴らしいと思ったのは、ご両親と言い、妻と言い素晴らしい家庭を持った点である。そこから、生まれる交友関係もうらやましいかぎりである。文学、音楽、学問、政治、経済に深く触れ、見事に昭和、平成史を綴っている。第2巻が楽しみだが、「冬の旅」であるだけにシューベルトの曲のように人生哲学が書かれているような気がしてならない。読み終えて、その感想を書いてみたいと思う
Posted by okina-ogi at 17:49│Comments(0)
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