2016年10月19日
『頑蘇夢物語』 徳富蘇峰著 講談社学術文庫 1230円(税別)
旅先(小樽)で購入した本である。旅先では読みきれなかった。続編もあるらしい。文庫本ながらボリュームがある。解説は、御厨貴、東大名誉教授。政治史、政治学が専門。「蘇峰さん、好きです」と最後に書いている。彼にとって、蘇峰の著述が、赤裸々な歴史の証言と写ったからだと思った。
徳富蘇峰については、若いときから関心があったが、著書を読むことはなかった。自伝を読んだような気がするが、本棚を探しても見当たらない。どこかの本屋で立ち読みして、読んだ気になっているのかもしれない。蘇峰の家は、大庄屋であり、武士階級との交流もあり、父親はりっぱな学者であり、横井小楠と深いつながりがあった。熊本市内に大江義塾が残され見学したことがある。二十歳頃自ら開いた塾である。好学の徒といって良い。蘇峰の家系図をそこで見たが、歴史に名を刻んだ人物が多くいる。
早くから、西洋思想やキリスト教に触れ開明的な思想を持った。その中で、大きな影響を与えたのが新島襄で、終生師と仰いでいる。新島襄の同志社の経営に、外から大いに協力し、臨終の場にも立ち会っている。大磯の旅館であるが、後年大磯に居を構えている。この本は、そこで書かれている。敗戦から3日後に書き始めている。この時、蘇峰は、80歳を超えている。筆法鋭く、赤裸々に心境を吐露している。その立場は、一貫していて、強烈な皇室中心主義である。天皇批判ともとれる記述もある。
徳富蘇峰は、ジャーナリストという範疇を超えた人物で、膨大な著述を残している。『近世日本国民史』である。全100巻。56歳から90歳を超えて完成させた。地の塩となって生きる、同志社人らしからぬ人物でもある。中曽根元総理は晩年の蘇峰を何度も訪ねている。もちろん首相になる前である。著書『自省録』に書いている。
Posted by okina-ogi at 12:00│Comments(0)
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