2014年06月27日
『藤村詩抄』島崎藤村著 岩波文庫 648円

詩人、島崎藤村の世界にも触れておきたい。藤村の詩集は、青年期の短期間に泉のように湧き出たという感じがする。25歳の頃、日清戦争の直後の時代である。明治学院、東北学院を辞し、小諸へ教師として赴任する前である。父親の狂死、友人北村透谷の自殺、教え子との恋愛、そして病死。若くして、人生の無常観を意識したことは、容易に想像できる。芭蕉や西行に惹かれ、長い一人旅も経験している。千曲川旅情の歌に出てくる遊子(旅人)はまさに藤村自身である。
『若菜集』、『一葉舟』、『夏草』、『落梅集』の中から、藤村自身が詩を選び、昭和の初期に出版したのがこの詩集である。美しい言葉と哀調のメロディーに包まれた詩が多い。旧制高校の学生たちは、心躍るように藤村の詩を読んだのだろう。明治後期から大正生まれの人は少なくなっているが、青年期に出会った藤村の詩は、彼らをロマンチックな世界に誘ったであろう。
Posted by okina-ogi at 11:56│Comments(0)
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