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2012年10月08日

智恵子抄

心に浮かぶ歌・句・そして詩33

「智恵子抄」で好きな詩は、幸せだった頃を回想した「樹下の二人」と臨終の場を描写した「レモン哀歌」である。
樹下の二人
  ―みちのくの安達が原の二本松
    松の根かたに人立てる見ゆ―
あれが阿多多羅山、
あの光るのが阿武隈川。

かうやって言葉すくなに座ってゐると、
うっとりねむるやうな頭の中に、
ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡
ります。
この大きな冬のはじめの山の中に、
あなたと二人静かに燃えて手を組んでゐるよろこびを、
下を見てゐるあの白い雲にかくすのは止しましせう。
以下詩は続くが省略する。
冬の小春日和、二人は、智恵子の実家の見える裏山の崖の上で、言葉少なに阿多々羅山や阿武隈川を見入っている。手を組んだ智恵子のぬくもりが、遠い過去の幸せだったその日を忘れさせないでいる。
 レモン哀歌
そんなにもあなたはレモンを待ってゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑う
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういう命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたような深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
レモンを今日も置かう

 レモンと死、それは智恵子の清純な心を連想させるとともに二人のこの世のわかれにふさわしい荘厳な高貴な香りを漂わせている。看取る光太郎のやさしさがかなしく伝わってくる。


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Posted by okina-ogi at 18:10│Comments(0)日常・雑感
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