☆☆☆荻原悦雄のフェイスブックはこちらをクリック。旅行記、書評を書き綴っています。☆☆☆

2017年06月24日

『人間 吉田茂』塩澤実信著 光人社



戦後の日本の宰相として吉田茂の評価は高い。政治家の本を今はほとんど読まないが、好んで読んだ時期があった。古本として再読した本が、本著である。吉田茂は、外務官僚で、戦後総理大臣になった時は、67歳であった。年齢的にも、政党人でもなかった、吉田茂が、宰相になることは、敗戦後という特殊事情があった。公職追放によって、首相候補が次々に資格を失い、吉田茂に白羽の矢が立ったのである。
吉田茂の実父は、高知の政治家であったが、吉田茂は、生まれて間もなくに吉田家の養子になり、養父が実業家で成功し、40台の若さで無くなったため、11歳で、今日で50億円という莫大な遺産を引き継いだ。大磯に旧吉田邸があるが、それも遺産の一つである。その遺産は、一代で使い果たしたというから凄い。
A級戦犯として絞首刑になった広田弘毅も外務官僚であったが、開戦前に首相になったことが、吉田との政治家としての明暗を分けた。ただ、吉田茂は、一貫して親英、親米で多くの政界の要人との人脈も築いていた。三国同盟には終始反対であり、松岡洋介とは考えを異にしていた。開戦後も、終戦工作をする気骨もあった。投獄されたこともあった。こうしてみると、吉田茂が戦後の日本の舵取りを任されたのも納得がいくのである。
著書のタイトルが、人間吉田茂となっているが、なるほどと思わせる、数々のエピソードが紹介されている。二つ三つ拾ってみる。いずれも機智とユーモアが感じられる。一つは、昭和天皇に冬の日「吉田は寒くないかね」と声をかけられ「吉田は懐が暖かいので寒くございません」と答えた。陛下が、分かりかねていると、侍従長の説明で、大笑いされたという。さらに、選挙演説などは嫌いで、得意でもなかったが、これも冬の日に演説していた時の話である。吉田茂は、外套を纏って演説を始めた。聴衆から「マントくらいは脱げ」と声がかかると、「これは街頭(がいとう)演説である」と応じた。最後は、吉田茂は富士山が好きで晩年は、富士の見える大磯で暮らしたが、英国王女夫妻が訪ねてこられた時に「富士山の頂上はいつも雲がかかっていて、姿が見られないのは残念です」と言うと、吉田は、「富士は自分より美しい人に眺められると、はにかんで顔を隠すのです」と応えたという。
  

Posted by okina-ogi at 14:38Comments(0)書評

2017年06月20日

妙義ふるさと美術館



現在、富岡市の市立美術館になっているが、平成の市町村合併の前に建設され開館している。当時は、妙義町であった。妙義山を背景にした高台にあって眺望が良い。近くには、日帰り天然温泉もあり、ちょっとした寛ぎのゾーンになっている。
館内には、妙義山を描いた作品が並んでいる。四季を描いていて見事である。「妙義山を描く絵画展」が企画され、第35回の会を重ねている。地味ながら、こうした行政の文化活動は、評価してよい。維持管理に税金は使われているが、必要経費と考えて良い。
昭和から、平成に移る時、竹下内閣でふるさと創生事業として、全国の市町村に1億円が配られたことがあった。使い道は、市町村が考えることになっていて、使途も問わないことになっていた。榛名町は、町民に事業の案を募集した。私も募集に応じたが、知るか知らずか、妙義町の発想が根底にあった。榛名山を描いてもらい、審査に通った作品を町が所有し、美術館建設は後回しにしても良いから、優秀作品を公立の建物に飾り、小中学校には巡回展示したらどうかという案だった。賛成が2票あったと、町の広報誌にあったが、結果的には公園整備に一億円は使われた。米百俵のように、時間をかけた文化事業に投資するのは、勇気がいるのかも知れない。
  

Posted by okina-ogi at 11:19Comments(0)日常・雑感

2017年06月13日

『増補版 上野三碑を読む』 熊倉浩靖著 雄山閣 1800円(税別)



著者から、新著を贈呈された。増補版とある。それにしても、前著の出版から日が経っていない。内容も深化している。そして、著者のテーマである『上野三碑』は、世界記憶遺産の登録に向けて進展しているようだ。地味なテーマだが、歴史的、文化的側面を考えると、重要なテーマに違いない。
前著にない項目に、碑の書体を取り上げている。文字の内容は、もちろん研究中心に置かれて当然だが、あらためて、三碑の書体を眺めて見ると味わい深いものがある。漢字の普及の黎明期に、地方にあって、これほどの個性的な文字が石に刻まれたことは、驚きである。中国の宋の時代には、「石刻遺訓」が知られているが、石に刻まれた文字は、長く残ることに加え、刻んだ人の気持ちも、人柄も伝えられることを実感した。著者の、碑の研究の時間を越えた探求は続くが、実際に碑を訪ねてみたいと思う。山上碑と金井沢碑は近そうなのでハイキングコースになりそうである。著者の住まいに近いので、時間が許すなら、ガイドしていただきたいものである。
  

Posted by okina-ogi at 11:58Comments(0)書評

2017年06月07日

三方良しの精神



梅雨前線が近づく中、今は梅の収穫の最盛期である。梅の産地としては、和歌山県が知られているが、群馬も梅の産地である。榛名山麓の南面も梅林が広がっている。我が家も、兼業ではあるが梅農家である。青物なので、出荷は、販路がないと大変である。市場に出荷すれば良いのだが、市場までは距離がある。
農協には加入せず、小さな梅組合に加入して、共同出荷している。食品会社が、産地の近くに漬け梅工場建てて久しい。主な出荷場所になっている。他にも漬け梅業者があり、出荷している。ただ、価格もまちまちで、選果した梅の大きさに違いがあり、どこを選ぶか迷うことになるが、基本的には、業者の納品依頼にあわせることになる。そこで痛感するのは、生産者は価格を決められないということである。中には、生産者に過度な要求をする業者もある。依頼条件に合わせて出荷したところ、受け付けない業者もある。泣く泣く生産者は、規格外ということで安く納品することになる。個人であれば、これを限りにお付き合いしなくとも良いが、組合となればそうも行かない。しかし、信頼関係が第一なのは、どこの世界でも基本である。悪徳業者のレッテルは貼っていないが、こうした業者は淘汰されるに違いない。三方良しの精神が大事である。生産者、買い手、消費者の三者にとって。
  

Posted by okina-ogi at 11:11Comments(0)日常・雑感