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2012年07月31日

近石綏子さんのこと

 脚本家の近石綏子さんの訃報を、先日ご主人の近石真介さんの手紙で知った。7月の中旬に、近石綏子さんの御子息が手がけられている、コーヒーのセットが今年も贈られてきた。そのお礼の葉書を書いた直後のことだったので大変驚いている。紀行文をお送りし、よくその感想もいただいた。古くからのお付き合いであったが、ここ数年は、難病を患いベット生活に近かったようだが、電話などいただくこともあった。以前、職場の機関紙にご寄稿いただいたこともあり、編集後記に近石綏子さんのことを書いたことがあった。亡き近石綏子さんを偲び、その記事を掲載し、御冥福を祈りたいと思う。

楽園終着駅               (昭和六十二年・秋号)
東京の俳優座で「楽園終着駅」という演劇を見た。老人ホームで生きる老人達を描いている。作者は、今回の〝新生〟の巻頭言をかいてくださった近石綏子さん。ご主人は、俳優の近石真介さんで、この劇を上演している劇団東演を主宰しておられる。近石綏子さんは、数年前に新生会を取材された。その印象が登場人物にも反映されている。
ダイナミックな人間模様が展開され、登場する老人達が個性的に描かれていることに好感を持った。〝ひかり輝く老戦士達の愛の調べ〟という近石さんの主題は、〝老人ホームとは、その人らしく生きられる場所〟ということを指摘しているように思えた。
老人ホームが、老年期における特殊環境であるという根強い社会通念の再考を促す作品として一度観賞することを勧めたい。施設関係者には、老人ホームを客観視できる良い機会になるはずである。

胡弓                    (平成九年・秋号)
胡弓は、中国の代表的な民族楽器である。中国では、京劇で使われたり、庶民が弾くことも珍しくない。〝胡〟は、中国の人たちにとって西方の人の意味を持つ。今から約一五〇〇年前に、シルクロードを渡ってきたペルシャ人が伝えたというのが定説である。夜は恐ろしい程に静寂で、荒涼とした砂漠の中を、故郷を遠く離れて孤独な旅を続けなければならない人々にとって胡弓の音は、心をいやしてくれたに違いない。
東京紀伊国屋ホールで演じられた、劇団東演の「そして、あなたに逢えた」を観劇した後の余韻としてふと胡弓が浮かんできた。痴呆症のお年寄りの世界を見つめてきた近石綏子さんの優しさと、深い個人史を持ったお年寄りの心の世界は、長い時を経て深遠な音色を生む胡弓を連想させる。近石さんの〝痴呆の心〟を求めた旅は長いだけに、深い感動を観客に与えている。


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