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2012年10月31日

山寺へ(1)

 二十一世紀に入り、今回が四回目の元旦東北行きとなった。東日本旅客鉄道発行の「正月パス」という切符を利用しての旅だが、有効期間は一月一日限りである。新幹線のグリーン席は別料金が必要になるが、指定席が四回とれる。北海道の函館の日帰りも可能である。利用する人が多くなったのだろう。JR東日本は強気になって、今年からは、一万二千円に値上げした。二割増でも遠距離を目的地にすれば、通常料金よりは、はるかに安い。民営化になって、様々な企画がなされるようになった。結構な事である。「青春18切符」などというのもある。在来線の普通列車に五日間乗り放題、一万一千五百円。時間のある高齢者なら、ゆったりとした楽しい旅ができるかもしれない。ネーミングも粋である。JRの宣伝のつもりではないからこれくらいに留めておきたい。
 今年の目的地は、山形市郊外にある山寺にした。同じ榛名町に住む友人の提案でそうなった。目的地をどうしようかと考えていたところ
「一緒に行きましょうよ」
ということになった。彼のご子息は、東北大学の医学部に学んでいる。自慢の息子さんである。他に候補地にしていたのは、松島と平泉だったが、結果的には山寺で正解だったかもしれない。
 大晦日に雪が降り、安中榛名駅までは、息子の車に乗せてもらうことにした。土産は奮発しないといけない。旅先から携帯電話で注文をとって、帰りの運転も頼むことができた。路が凍結していて、女性の運転手というわけにはいかない。
 山寺が正解だったというのは、雪と関係がある。水墨画のような山寺を見ることが出来たし、雪のためか初詣の客も意外と少なく、芭蕉が「山寺は、とりわけ清閑の地である」という雰囲気を味わうことができたからである。平泉の中尊寺あたりを訪ねていたら人出が多く、都会の雑踏の中にいる気分になったに違いない。今年のNHK大河ドラマは「義経」である。
 『春の雲』、『夏の海』、『秋の風』、『冬の渚』と紀行文を書き、一区切りしたという気持は強い。失礼ながらに謹呈した友人知己諸氏にも、暫くは充電してからにしたいと申し上げたが、人生という旅は続いている。暮れになって、近年来の旅行症が生じてきて、紀行文を書き続ける気分になった。
深川の庵から、旅から戻って二年もしない年の暮れに、白河の関を越えたくなり、なにかに憑かれたかのようにじっとしていられなくなった芭蕉ほどではないにしても、この性癖は死ぬまで直りそうもない。
本を渡される方からしたらご迷惑に違いないから、紀行文は書き溜めて置いても、しばらくは発行しないでおこうとも考えている。芭蕉の『奥の細道』も旅が終って、五年後に出版されている。推敲に推敲を重ねて世に問う程の真剣さと器量はないから、そのような大それた野心があるわけではない。ただ、テーマと本の名前は決めておこうと思う。『翁への道』という書名にした。翁とは、もちろん芭蕉を指しているが、これから年を重ねていくであろう自分自身のことでもある。旅先は、芭蕉ゆかりの地であることも意識したいし、そうした旅を重ねながら芭蕉という人の人生観を少しでも理解したいという意味も含まれている。
芭蕉を慕い、その足跡を辿りつつ本を書いた作家や俳人は数多い。それほどに、日本人にとって芭蕉は魅力的な人物である。既に読んだ作品の中でも、俳人の加藤楸邨の『芭蕉の山河―おくのほそ道私記』(読売新聞社)、『月山』で芥川賞を晩年近くに受賞した作家、森敦の『われもまた おくのほそ道』(日本放送出版協会)は、自分の体重をかけて書いている雰囲気のある好著である。体重をかけていると言ったのは、読者の意識に迎合するような書き方ではないというほどの意味である。二人の著名な先人の足元には及びもしないが、『翁への道』も全体重をかけて書くようにしたい。そのためには、芭蕉の句にさらに多く触れてみなくてはならない。加えて自分の心の識を高めなければならないが、後者の方が数十倍大変なことである。
      拙著『翁草』より


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