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2017年04月04日

春めくや人様々の伊勢参り(2017年4月)

 四月一日(土)、新年度最初の日の伊勢参りは、心改めるにはふさわしい日に感じられる。東日本大震災の年から、三度目の参拝になるが、六十二回の遷宮は、昨年既に済み、新しい神殿に神様は、お移りになっている。この日は、春雨が参道の砂利を濡らしていた。生涯五度目の伊勢参りになった。何ゆえに、この地に歩を進めるかと問われれば、西行法師が詠んだ和歌の心境というしかない。
 何事のおはしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるる
どうしても、人は自分が大切になってくる。思い通りにならないと悩み、他人を憎んだりする。その果てには、生きがいも失うことになる。大いなるものに生かされているという自覚は生まれてこない。伊勢神宮の神域に、大御心を求め、とりわけ内宮に参拝することは、説明はつかないが、日本人として大事な行為だと思っている。天皇崇拝ということではない。
 日本人としての自覚を呼び覚ましてくれた人物がいる。故人となって久しい。数学者岡潔である。春雨忌という故人とゆかりのあった人たちが集う会に今年も参加することになった。同行したのは、以前から尊敬する彫刻家の大先生である。春雨忌に参加するメンバーは、春雨村塾の塾生でもある。この方は、塾頭と言ってもよい。同じ群馬在住なので、高崎駅で待ち合わせ、奈良までの往路をご一緒した。渥美半島の伊良湖崎のホテルに一泊し、翌朝、フェリーで鳥羽まで渡り、伊勢神宮に寄り、松坂の本居宣長の記念館を訪問するコースを提案したら、喜んでご一緒しましょうということになった。
 渥美半島は未踏の地であった。豊橋から伊良湖崎に行くには大変な距離があるが、駅にホテルのバスが迎えに来る。無料サービスになっている。駅前で食事をして、バスに乗り込んだが、すっかり雨になり、窓はくもって景色は見られない。海岸線や、常春の半島と言われる春の風情を感じてみたかったが、雨は容赦なく降り続いている。途中、保美という地名があり、ここに芭蕉門下の俳人が住んでいた。というよりは、幽閉された流刑の地であった。
 

 芭蕉の紀行文に『笈の小文』がある。芭蕉の死後、世に出されたものだが、旅に伴ったのが杜国である。杜国は、富豪な商人であったが米の先物買いが発覚し、死罪は免れたが、財産を没収された。渥美半島の保美の里で、罪人として静かに過ごす身分であった。芭蕉は、杜国の才能を高く買っていたが、今風な言葉で言えば、イケメンであったらしい。年も若い。
 伊良湖崎にも連れ立った。杜国が、遠路わざわざ訪ねて来た師を労ったのだろう。
鷹一つ見付けてうれしいらご崎
という句を残している。鷹は、杜国なんだと言いたいところなのだろう。それにしても素直な感情を吐露した句である。句の中に「うれし」などという言葉は、俳聖と称される芭蕉には、不具合な感じがする。
 『笈の小文』の中には好きな句が多い。
草臥て宿借る比や藤の花
雲雀より空にやすらふ峠かな
ほろほろと山吹散るか滝の音
若葉して御目の雫拭はばや
蛸壺やはかなき夢を夏の月
故郷、伊賀上野、奈良、吉野そして明石まで足を伸ばしている。六カ月の長旅である。路銀はどうしたのだろう。もしかして、杜国に隠し財産があって工面したのかも知れない。
宿泊した伊良湖ビューホテルは、高台にあって眼下に浜辺が見える。恋路ヶ浜と名づけられている。柳田国男が若き日この地を訪ね、岸に打ち上げられた椰子の実を発見した。そのことを、島崎藤村に話すと、それをヒントに想像を豊かにして名作「椰子の実」の詩が生まれた。大中寅二によって曲がつけられ、今日まで多くの人に歌い継がれている。昼から降り出した雨は、降り続いている。海は煙っているが、沖には島が見える。三島由紀夫の小説の舞台になった神島である。岬と島の間を、大きな船が何隻も通過していく。岬の森には霧が立っている。彫刻の大先生の美意識には感心した。そうした風景を美しく深く観察して語ってくれる。藤村の程の詩才があれば、それをヒントに新たな名作が生まれるのだが及ぶべきもない。
 名も知らぬ遠き島より
 流れよる椰子の実ひとつ
 故郷の岸を離れて
汝れはそも波に幾年月
杜国は、船で漕ぎ出し伊勢で芭蕉に再会し、旅を共にする。我々は、芭蕉と杜国の関係ではないが、早朝この海を渡る。一時間とかからない。



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