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2013年03月22日

四万温泉郷(2013年3月)

 「世のちり洗う四万温泉」。群馬県の子供達が長く親しんでいる「上毛カルタ」にそう詠まれている四万温泉に初めて行ってみた。〝灯台もと暗し〟で、県内の温泉宿泊も良い。四万温泉の位置は、群馬県北部の山間の地にあり、狭い渓谷に四万川が流れ、その川に沿って温泉街が立ち並んでいる。行政区は、平成の合併でも変わらず、中之条町である。小渕恵三元総理の出身地である、庁舎のある中之条の中心部からは、国道三五三号線でかなりの距離がある。
 三月二〇日の春分の日を前後して出掛けたのだが、友人からの提案があったからである。大学で財政学を専門分野とする教授で、彼の方は、出版を終えて骨休みをしたいこともあった。友人も誘いたいという。詳しい説明はなかったが、民法が専門の大学教授だという。学者さん二人と同宿では、肩も凝るということにはならないかと少しは考えたが、人生はご縁である。こちらは、三月の末で定年退職になる。今後の身の振り方を、温泉に浸かってゆっくり考えたいとも思った。それに、二人は県外から来るので、交通の便が悪い。長野新幹線の安中榛名駅に迎えに行き車で案内することにした。
 宿の手配は友人がした。旅館の主が囲碁好きで、囲碁と将棋ができる会所となっていて、希望すれば地元の強豪と囲碁将棋ができるという。友人との共通の趣味は将棋である。同行する彼の友人も将棋が好きらしい。古い旅館らしいが、そんなことは問題ではない。
 
四万温泉郷(2013年3月)
 宿の名前は唐澤屋旅館という。老夫婦が経営している。他に従業員はいないようだ。連泊をすることになっていたが、我々三人の他は、客はいないようである。将棋愛好家との対局はできなくなった。そのかわり、一人一室ということになった。旅館で、個室というのも初めての体験である。
 一階が広間になっていて、囲碁や将棋盤が置いてある。客室にもあるので相当な数である。しかも、盤も本格的なもので、駒は黄楊のもので一目高価なものとわかる。駒台まであり、主の力の入れようが伝わってくる。広間には、有名棋士の色紙があり、囲碁の藤沢秀行の書も飾られていた。
 「囲碁は強弱に依らず形で現わす」
さすが秀行先生の言葉である。『野たれ死に』という本は、破天荒な生き方ながら人間味のある藤沢秀行を伝えている。晩年は、癌と戦ったがなかなか投了しなかった。
 藤沢秀行という囲碁棋士は、数々のタイトルを手にしているが、棋聖戦だけには執念を燃やし、六連覇したことがある。賞金額が高かったからである。アルコール依存症であったが、棋聖戦がある時は断酒した。ギャンブル好きで借金も多かった。女性関係も派手で、三年も家に帰らなかったことがあり、自分の家がわからなくなり、妻に電話したというエピソードがある。夫婦関係は切れず、妻は彼の最後を看とっている。遺骨は、瀬戸内海に散骨された。藤沢秀行の遺言だったのである。
碁は、主に一局お願いした。アマチュア四段というので、五目を置いて打たせていただいたが、七目勝ちになった。お客さんということで手を緩めてくださったのかもしれない。対局の途中
「その手は、なかなかのものです」
などと褒めたり、友人二人が観戦しているので気恥ずかしい気持ちもした。最後には
「初段の実力はあります」
これには驚いた。四―三、つまり相手が四段であれば、三目の置き碁で勝たなければならないと思っていたからである。四―五ではマイナス一である。良いところ三級もあればというところであろう。
 将棋は、友人と一局戦い熱戦だったが敗北した。彼もインターネットでこの日に備えて実戦経験を積み準備してきたようだ。時間をかけて丁寧に指したので、一局だけで充分である。将棋の奥深さを味わうことができた。それよりも、相手の志向を知ることができる楽しさ。簡単に言えば将棋を通じた会話である。
 食事は、広間でしたのであるが、宿泊したプロ棋士の詰め将棋の色紙があり、その場で解こうとしたが解けない。帰る日の朝食の後眺めていたら一瞬で詰んだ。春、草の芽が地上に出たという感じである。最後の砂が重く苦労したという感じでもある。
 連泊中の昼食は、宿では出ない。民法の先生が、車に載せていただいたお礼ということでごちそうしてくれるという。四万温泉には、奥様と一度来ているらしく、その時に泊まった宿の食堂のうなぎがおいしいという。俳優の児玉清が疎開していた思い出をたどり、取材した旅館らしい。うなぎは遠慮し、そのかわり、日本酒とヤマメの塩焼き、雑炊をいただいた。気さくな人で温泉が大好きだという。来年もこの宿を拠点にして、近くにある沢渡温泉や草津温泉を案内してあげても良いと思った。家族に、大量にお土産を買っていた。この日、友人が群馬県の産業経済部長に就任するという記事を見てこの店からお祝いの電話を入れたが、彼に会ったら今回のことを話そうと思う。


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Posted by okina-ogi at 07:16│Comments(0)旅行記
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